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詩集「ヒマラヤの風」から

By 幸田比呂

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―目次―

.「耕して天に至る」

.「トレッキングロード」

.「急な雨」

.「天国の叔父へ」

.「アンナプルナの風」

.「ごちそう」

.「風の学校」

.「トレッキングハイ」

.「太陽の朝」

 

 

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「耕して天に至る」

何千年もの間

稲田は拡大し天に至る

山頂まで開墾し

家は山々に散在する

人々はどのように暮らしているのだろう

いく年世代を重ねてイネを育て

汗の結晶が山の頂上から

山麓まで埋めるように広がる

恵みの糧の収穫が始まるのもうすぐだ

 

 

「トレッキングロード」

古道がトレッキングロードとなり

肩の上に重い荷物を乗せたポーターたちが歩き

ベテランのガイドが山道を案内する

そこは何百年もかかって敷かれた石の道

騾馬やロバが村人の必需品を運んでいる

稲田は目線の遥か上に広がり

5時間後ようやく高地の村に到着した

今夜の仕事は

ここで深い眠りをむさぼるだけ





 



「急な雨」

山小屋についた途端

雨だ

三千メートルを超えたあたりだ

それはまるでバケツから直接降ってきたような勢い

後からついた登山者は皆 ずぶ濡れだ

早く着いたものはもうビールを味わいご満悦

暖炉を囲んだ人々は

体を温め リラックス

足の痛みは次第に薄れ

ヒマラヤの夜が更ける




 

 

「天国の叔父へ」

この地に彼が来たのは30年以上も前

以来83歳になるまでヒマラヤにやってきた

アルピニスト歴60年

叔父は父と双子で顔がよく似ており

子供たちはお祖父さんのコピーと呼んでいた

叔父は私を野外に連れ出してくれた

それが半世紀もの間

私が山に親しむ理由でもある

今 ネパールの地に立った時

彼のくれた贈り物が何であるかよく判った

その刹那

叔父がすぐそばで

微笑んでいるような気がした

 

 

「アンナプルナの風」

巨大な岩の塊のような山脈が

目の前に広がる

マサラ茶を飲み

心地よい風を受け 椅子に腰かける

犬や鶏たちもテーブルの下で待機

客の落とし物を狙い静かだ

眺めていると

アンナプルナの頂から

雲が突然東方向に移動し

遠来の客に

雄姿を現した

 



「ごちそう」

午後5時に注文した

理由は簡単だ

普段より早いオーダー

料理は注文してから作り始める   

油でニンニクを炒める  

水と少々の塩を加え

5分で出来上がるガーリックスープ

同時に野菜の炒めものにコリアンダーが

私のリクエストで加わった

出来上がったばかりのモモを

ガーリックスープにひたして口に入れる

まるで水餃子を頬張るような気分だ

作りたての香しさ

こんな食事風景がこれから3時間ほど継続し

全ての客が夕食にありつけるのは8時過ぎ

多忙なごちそうつくりが

山小屋の中で繰り返される




「風の学校」

午前十時

学校の開始だ

5歳から15歳の子供たちが

村からやってくる

皆同じユニホームで誇らしげだ

開校の鐘の音にひかれるように

険しい坂道を駆け抜けてやってくる

国歌を全員で歌い

それぞれの教室に入ると

静けさと騒音が共鳴し

教師の大声が伝わるようだ

お休み時間の合図がすると

全員教室の外に出て

サッカーやら追いかけっこに興じるもの

草むらに腰かけて

ぼんやと空を見上げる子供たち

まるで天空を舞う蝶が休息するように

アンナプルナの風を受け

全員リラックス

 

 


 

「トレッキングハイ」

海抜千メーター地点からトレッキングは始まる

水田、雑穀畑を過ぎて

吊橋を渡る

最初の一時間はただ足のストレッチ

残りの5時間は重い荷物を運ぶロバのごとく

急な斜面をよたよた登る

何も運んでいないに等しいのに足がつる

若いポーターたちが重い荷物を運び

そのあとをついてゆくだけ

自分の足で


 



「太陽の朝」
輝く太陽がヒマラヤ山脈に昇る

反射する光が次第に雲の上に広がり

地平線からはるかにそそり立つ巨大な塊は想像以上

太陽が完全に雲の上に到達したころ

何千年もの間存在する氷河に反射した

その側面が明らかになる

魂が奪われそうな瞬間を過ぎると

日常が回帰する







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