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By 幸田比呂

 

MiyagiからAkitaへ」

 

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目次

 

.「宮城から秋田へ」

.「峠越え」

.「泥湯の風」

.「手打ちそば」

.「渓谷は遥か遠くへ」

.「須川の記憶」

 

 

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「宮城から秋田へ」

 

昔の人はどうやって

この奥深い峠道を

越したのだろう

素朴な疑問がわきあがるほど

山道は深い谷を抜ける

長いトンネルをくぐり

ようやく出ると

そこは秋田杉の

見事な風景

地図で見た峠の茶屋は店じまい

人影すら見られない

客が来なくては商売にならない

当たり前の論理がこの山中でも同じなのだ

ようやく見つけた

間道への道

昼飯はこの峠を越えてからにしようと

山脈の絶景を展望しながら

車を進めた

 





「峠越え−小安峡への道」

 

MiyagiからAkitaに入った

さびしい峠が往時を偲ばせ

旅人達の苦痛が聞こえるようだ

秋の宮という美しい名前の地をこえ

深い山の道は積雪期には閉ざされる

秋田杉が堂々と軍団となり

初夏の風を浴びている

河原毛地獄には

硫黄の煙が立ち込め

植物の育たない谷が眼前に広がる

立ち入り禁止の標識が危険を知らせ

目には見えない空気が漂う

ここを駆け下りると

湧きあがる湯の里

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「泥湯の風」

 

乳白色の露天風呂には客もなく

太陽のもと心と体を癒すに十分

噴火した火山の底から

こみあげるようにして湧き出した湯

硫黄の花が乳白色になった

夏の太陽が照りつける中

旅人は湯船に浸かり

青い空を見上げる

トンビが高く空を舞い

一人だけ時間を費やしていることに

贅沢さを感じるのは

旅人だけ

 

 


 

 

 

「手打ちそば」

 

山里の一軒家にソバ屋がある

道路脇だが急いでいれば

見過ごされそうな店

十割そばを注文し

周りを見渡すと

常連客がやはりいる

出てきたそばは

ごそごそしたもの

箸でつかめば

きれそうな不揃いさ

そこがよくて通う旅人もいるのかと

生わさびを付けて

口に滑り込ませると

あのそばの香りが

口いっぱいに広がった

 

 


 

 

 

「小安峡:渓谷は遥か遠くへ」

 

かってここはいかなる風景だったろう

立派な道路ができ

橋ができ

人々は行楽という喜びを求めて

この地へやってくる

深い渓谷のそこには何があるのか

そこを通った旅人は何を思ったのか

冬ともなれば

深い雪に覆われ

長い静寂に包まれる

それを求め

人びとがやってくる

 

 




 

「須川の記憶」

 

あの時は土砂降りの雨だった

大露天風呂が土石流に流され

乳白色の温泉が泥一杯になった

 

大きな地震もあり

この温泉も大打撃を受けた

新築の旅館が開業

一部はまだ工事中

作業員たちが忙しそうに

うごきまわる

 

あの露天風呂も改修され

透明な湯に変わっていた

 



 




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