幸田比呂詩集

「日曜日のスキー場」より

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.「日曜日のスキー場」

.「ゴンドラの空間」

.「ヤドリギのゲレンデ」

.「スキー3世代」

.「ダケカンバの森」

.「体感温度」

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「日曜日のスキー場」

 

広大な駐車場に

次々に到着する車から

親子が降りてくる

傾斜のやさしいゲレンデで

父親の後から

小さな子供がついて滑り

母親が優しく見守る

 

ランチタイムの大食堂は

長蛇の列

チケットを買い ようやく

食事にありつける

一生懸命ラーメンやら

カレーライスを口に運ぶ

大人が子供の面倒を見る

そんな日曜日の光景が目の前にある

 

 

 

 

 

 

 

「ゴンドラの空間」

 

吹雪はリフトを揺らす

ブナの森から吹き抜ける

雪の粉が山の精となり

冷え冷えとした日なのに

 

滑る前方には何も見えない

今度はゴンドラに乗り換えると

吹雪は下界の静けさのようであり

ゆっくり上昇するゴンドラの中では

静かな時間だけが流れ

会話が弾む

 

 

頂上に着けばそこは白銀の世界

深呼吸をし

レッグストレッチのあと

ただひたすら滑り降りる

爽快感

 

 

 

 

 

「ヤドリギのゲレンデ」

 

ダケカンバの大木に

鳥の巣のように生きている

その下で

子供たちがスキーに興じ

父親が後を追って滑る

この楽しげな光景を

鳥の巣の正体

ヤドリギが見つめ

陽光が雪面に反射する

まぶしさに

目を細める

 

子供たちの歓声は

この冬だけで

やがて雪が解け始めるころ

山はいつもの静けさに戻り

ヤドリギたちの巣も

忘れ去られる

またやってくる冬の到来まで

 

 

 

 

 

 

スキー3世代」

 

体の間に挟み込む

まだ板に慣れない子を

怖がらせないよう

ゆっくり滑り始める

 

斜面をトラバースし

すぐ止まる

右に行くんだ

次は左だと言いながら

子供の感触を確かめる

この繰り返しに慣れると

今度は自分で右―左と言い

言われた方向に

僕は回転した

 

抱きかかえるように

リフトに乗り空中散歩

スキーをぶらぶらさせ

白樺の美しさに見とれた

 

ウサギの足跡があるヨというと

うさぎさんの足跡だと

こだまの様に叫んだ

 

ふと下のゲレンデを見ると

子供と滑降を楽しむ親たちの姿

何年か先

孫の後をスキーで追う

自分の姿を見た

 

 

 

 

「ダケカンバの森」

 

白銀の中にダケカンバの老木が

堂々と群れをなし

見逃された命を深い雪にうめ

ながい冬を耐える

 

ゆっくりと

冬眠を決め込んでいるのか

その存在をリフトから見下しながら

雪融けの日まで

ユックリ休んでくださいと祈る

 

ヒトとの接触は

彼らにとって意味のないものであり

私たちが居なくとも

そのライフサイクルは守られる

 

眼前に広がる

ブナの森に感動するのは

何か見えない糸の繋がりが

遺伝子に刻まれている証

 

 

 





「体感温度」

 

この部屋は

20度なのに寒い

足元が冷える

昨日までイワテにいた

部屋は概ね15度だった

コタツに入っていたせいか

寒いとは思わなかった

トイレは10度で

さすがに赤外線ヒターで温めた

 

トウキョウに戻り

暖かな部屋にいるはずなのに

寒い

下着を薄手にしたせいか

靴下を取り換えたためか

暖かな環境で寒さを感じる

この1週間で確実に体が変化した

 

 







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