幸田比呂詩集:

「終着駅から」

 

 

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目次

 

.「解放の時」

.「新聞タイム」

.「コツコツ」

.「切られた桜」

.「黒一色」

.「終着駅から」

 

 

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「解放の時」

 

感情を押し込めなければ

自由になれる

喜びはここにあるのに

感動を抑えつけるのは誰だ

 

心が躍るようにと期待すればするほど

感動が離れてゆく

離れようとする自分の中の何かを

抑えられないのは誰だ

 

飛び込めと命じる頭の中で

それを押さえつけるのは誰だ

 

遠くへ行こうと決心しても

いつもの場所でさまよう

閉じこもるのは誰だ

 

何かが 自分ではない気持を願い

何かが自由を奪い

そこから飛び出せば

楽になると思い込むのは誰だ

 

大空に漂う雲に向かって

叫んでも

返ってこないこだまが

むなしく残るのは誰だ

 

聞こえない音を

いつまでも心にとどめ

何かを叫ぶ心で今をみる

 

 



 

 

「新聞タイム」

 

電車の座席に腰掛けたとたん

背中に背負った赤いリックを開き

新聞を取り出す

この20分が朝のフリータイム

隅から隅まで紙面に目をやり

脳内トレーニング

歌壇や投書欄に

味わい深い投稿を見つけた時

同感の思いに駆られ

ペンで印をつける

後で切り取り日記に張るためだ

電車が南浦和についたら

ここで切り上げる

時々中で読みふけり

北浦和を乗り越し

終着の大宮まで何度行ったことか

 

 



 

 

「コツコツ」

 

どれ一つとっても

一日ではできない

 

コツコツと積み重ねる

コツコツと歩みつづける

 

汗は一度にドット出てこない

ジワジワかいた汗は

命の一滴

それが一滴一滴流れる

 

もし一度に

今までの歩みを重ねたら

たちまち

足は粉々に砕けるだろう

 

一歩一歩ゆっくり

踏み固めながら

歩いているから

足は痛みを感じない

 

振り返ってみると

コツコツと積み重ねた

時という過去が

今を作り上げ

その先に

明日が待っている

 

 




 

「切られた桜」

 

台風で桜が倒れた

しばらくするとその周りの20本ちかい樹の枝が

切られ始めた

大きなクレーンに乗った男たちが

枝を容赦なく伐採する

梅雨時の緑濃い若葉が

泣きながら地上に落とされる

 

裸にされた桜の樹は

しばらくすると灼熱の夏を迎えた

なんと下の幹から新芽が出ている

新しい枝が

生かしてほしいと叫んでいる

 

厳しい夏を越せば

秋の落葉期を迎え

長い冬の休眠にはいる

そして

美しい花が

消えた枝を隠すように咲き誇る春を

夢見る

 



 

 

「黒一色」

 

電車に飛び込んだ

何と黒黒の冬物を着込んだ人々

どれも黒

新幹線に乗った

黒黒

まるでお葬式に行く人が座る

ダーク ワールド

 

 

 

 




 

「終着駅から」

 

黙って乗っているだけで

電車は私を運んでくれる

目的地は電車が行く先

目を閉じていても

次第にそこに近づく

人生とはこのようなもの

時という大きな乗り物に乗り

運ばれる

誰もそれを止められない

山を越え

川を渡り

森を通り

年齢が加わり

肉体は衰える

目的地が次第に分からなくなり

どこに向かっているのかと考えても

回答はない

終着駅には別な世界への

始発電車が待っているかもしれない

―という希望

 

 




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