詩集「トウホクの風」から

幸田比呂

 

 

 

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.「花見山の風」

 

.「田沢湖線」

 

.「男鹿の風」

 

.「ナマハゲの村」

 

.「八郎潟の風」

 

.「白神の風」

 

 

 

岩手山

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「花見山の風」

 

朝日連峰が

パノラマのように広がる

この小さな丘の上から

一斉に咲き乱れる

ピンク、黄色、白

色とりどりの花の競演

いつの日からか

花見山と呼ばれ

人々が集う

小さな山間に植えられた

花咲爺さんの森が

今 人々を引き付ける

早朝からカメラを構え

日の出を待つグループ

ゆっくり散策するカップル

老いた母の車椅子を押す息子

一刻一刻と太陽が地上に

光を注ぎ込むと

人々の会話も和やかになり

花を愛でる人々の声が

あちこちから聞こえる

そのすべてを

この山の木々たちが受け入れ

幸せの風を運ぶ







 

「田沢湖線」

 

「こまち」が盛岡を出発すると

雲を頂いた岩手山が

その雄姿を現す

箱が森、赤林、南昌連山が

セザンヌの絵のような新緑にあふれ

盛岡の軽井沢と

誰かが言った小岩井あたり

菜の花が帯状に広がり

白いリンゴの花や

セイダカアワダチソウのイエロー

春が一気に噴射したような

草花の競演を横目に

「こまち」は深い山脈に分け入る

 

駒ケ岳がようやく見せた

雪解けの馬の形

カモシカが出てきそうな谷間

ここが本当に新幹線かと

不思議に思うほど

田沢湖線は深山を走る

まじかに迫った断崖を見下ろし

長いトンネルを抜けると

そこは秋田杉の里だ

 


 

 

「男鹿の風」

 

灯台の下には

広々とした海原が広がる

日本海の穏やかな

波の飛沫が爽やかな風を運ぶ

うっそうと茂るイタドリの群れ

見渡す限りの蒼々たる海

 

人工物のない海岸

まるで牧野のような若草の中を

さ迷い歩くのは爽快だ

入道岬に春が来た

 

 

 

 

 

 

「ナマハゲの村」

 

どこに行っても「なまはげ」の表記

巨大な「なまはげ」像が

道路際で待ち構える

何時のころか

この風習が始まり

今では観光の目玉になった

 

 

恐ろしきもののはずが

何やら滑稽にも見える

人間の欲望を抑え込むための

擬似的象徴

その風習を

町おこしの手段に使うのも

現実

 

 

 

 

 


「八郎潟の風」

この埋め立てられた大地に

運河が流れ

人工とは思えない

広大な土地が広がる

一面のイエロー

菜の花街道

まるでチョウになったような

ドライブ気分だ

 

 

タップリと水をたたえた大きな田圃

寒風山が地平線に見え

巨大なトラクターがエンジンをこだまさせる

食糧基地を開拓し幾十年

人々の食を支える大地が

永遠であることを願う

八郎潟の風

 

 

 

 

 

「白神の風」

 

高速から降りると

そこはブナ樹林帯への入り口

田んぼが広がり

どこにもありそうな村が見える

流れる川の色

運ばれてくる風の香り

全てが白神からだ

人を寄せ付けない土地に

引き付けられ癒される

吹き寄せる風は

そんな栄養分をたっぷり含み

ここではそれらをただ受容すればいい

 


 

 

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