「霊山の秋」
秋の陽が隠れそうになる頃
野良仕事の手をとめて
農夫は空を見上げる
遠くの田圃には
刈り取った稲が束となって
残照を受けて立つ
戦国の落ち武者のようだ
今日オランダから届いた
スイセンの球根を
畑の一隅に植えて
私は弟夫婦と家に戻る
その昔
蚕を飼った納屋があり
母屋の裏には白壁の味噌蔵がたつ
一から十八の番号をうった
米を蓄えた小屋は
『瓦』をかぶって今も残る
夕陽が裏山に隠れた頃
老いた農夫が畑から戻って来た
霊山は静かに暮れてゆく