とんかつ平兵衛
客が
まるでマジックでも見るように
金髪に染めたマスターの動きを見つめる
油がジャージャーいわない所を見ると
低温油のなかに
厚い衣をつけた肉の塊が沈んでいるようだ
一ミリ一分の揚げ時間だと
マスターが教えてくれるが
トンカツを揚げている感じはしない
三十分程して
ようやく厚いトンカツが
目の前に出現する
なるほど
衣はまだ揚げたての卵の味がして
トンカツらしくない
食べ慣らされた
あの厚くて衣の固いトンカツと
よほど異なる仕上がりに
何度も不思議だと思いながら
金髪の三代目の動きに引き付けられる